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大阪地方裁判所 昭和33年(ワ)103号 判決

原告 宇部曹達工業株式会社

被告 旭化成工業株式会社

主文

被告は原告に対し金百六十五万二千五百円を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文第一項同旨の判決を求め、その請求の原因として、

「(一) 訴外三和産業株式会社は、かねて被告に対し金二百六十四万二千三百十三円の曹達灰の売掛代金債権を有していたところ昭和三十二年七月二日原告に対し右債権を譲渡し、同日被告に対し右債権譲渡通知書を交付し、もつて、債権譲渡の通知をなした。

(二) ところが、右債権譲渡通知書は、民法第四百六十七条第二項に定める確定日附ある証書でなかつたので、原告は、翌七月三日被告の了解を得て同人から右債権譲渡通知書を借受け、即日原告の手によつてこれに大阪法務局所属公証人茶谷勇吉の登簿更第一六〇四七号の確定日附を得た上、これを被告に返戻し、もつて、確定日附のある証書としての要件を完備せしめた。

(三) 上述の如くであるから、原告は右債権譲渡をもつて、債務者である被告に対しては勿論、右確定日附を得た昭和三十二年七月三日以降は債務者以外の第三者にも対抗し得る筋合である。

(四) ところが、訴外株式会社井上喜商店は、前記三和産業株式会社を債務者とし、被告を第三債務者として大阪地方裁判所に前記(一)の債権の内金百六十五万二千五百円の債権につき、仮差押の申請をなし、同裁判所は、昭和三十二年七月十五日その申請どおりの仮差押決定をなし、該決定は、数日後右債務者及び第三債務者にそれぞれ送達せられた。そこで、被告は前記債権から、右仮差押された債権額を控除した残額金九十八万九千八百十三円を同年八月三十一日原告に対し弁済したが、右仮差押された債権については、仮差押を理由に、原告に対しこれを弁済しない。

(五) その後、訴外三木産業株式会社は、前記三和産業株式会社を債務者とし、被告を第三債務者として大阪地方裁判所に前記(一)の債権の内金百六十五万二千五百円の債権(前記仮差押された債権)につき、仮差押の申請をなし、同裁判所は、昭和三十二年十月九日その申請どおりの仮差押決定をなし、該決定は、数日後右債務者及び第三債務者にそれぞれ送達せられた。そこで、被告は、更に右仮差押を理由に右仮差押された債権を弁済しない。

(六) けれども、上述の如く、原告は、前記債権譲渡通知書に確定日附を得た昭和三十二年七月三日以降は本件債権譲渡をもつて債務者である被告以外の第三者に対抗し得る筋合であるから、右各仮差押債権者である訴外株式会社井上喜商店及び三木産業株式会社にも対抗し得る。従つて、右各仮差押決定はいずれも無効であつて、被告は右各仮差押を理由に前記金百六十五万二千五百円の債権の弁済を拒絶することはできない。

(七) 以上の次第であるから、原告は被告に対し右債権金百六十五万二千五百円の支払を求めるため、本訴請求に及ぶ。」

と述べ、

立証として、甲第一ないし三号証(但し、第一号証は写、第二号証は一、二)を提出し、乙号各証の成立を認め、これを利益に援用した。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、

答弁として、

「原告主張の(一)、(二)の事実は認める。同(三)の主張中、原告が本件債権譲渡をもつて債務者に対抗し得ることは認めるが、第三者に対抗し得ることは争う。同第四、五の事実は認める。」

と述べ、

立証として、乙第一ないし三号証を提出し、甲第一号証につき原本の存在及び成立を認め、その余の甲号各証の成立を認めた。

理由

原告主張の(一)、(二)の各事実については当事者間に争がなく、弁論の全趣旨によると、原告が、その主張の(二)の如く昭和三十二年七月三日その主張の債権譲渡通知書に公証人の確定日附を得るについては、予め本件債権の譲渡人である訴外三和産業株式会社の承認を得たものであることが認められる。

そうすると、原告は、その主張の金二百六十四万二千三百十三円の本件債権の譲渡をもつて、債務者である被告に対抗し得ることはいうをまたないところであるが、債務者以外の第三者に対抗し得るかどうかについて判断する。

民法第四百六十七条第二項に指名債権の譲渡を債務者以外の第三者に対抗する条件として譲渡の通知又は承諾につき確定日附ある証書を必要とした立法趣旨は債権者と債務者とが通謀して譲渡の日附をさかのぼらせて不正に第三者を害する詐欺的行為を予防せんとするにあるから、その目的は一に譲渡の日附の確実を期するにある。しかも、譲渡債権の通知又は承諾に関する証書の確定日附は、通知又は承諾の意思表示のあつた当時のものであることを要しないとともに、その後においてその証書に確定日附があるに至つたときは、その日附以後において始めて債権の譲渡を債務者以外の第三者に対抗し得ることを得るものであると解する(大審院大正三年(オ)第三九一号、同四年二月九日判決参照)。そして、一旦債権譲渡の通知がなされた後において、該通知に関する証書に確定日附を得る者は、法律上譲渡人において通知をなすべきものである関係上、通常譲渡人であるが、譲渡人の承認によつて譲受人が確定日附を得た場合でも、前記説示はあてはまるべきものであるというべきである。けだし、この場合、民法第四百六十七条第二項の前記立法趣旨に徴し、譲渡人が自ら確定日附を得たときと区別して解釈を異にすべき理由は全く存しないからである。

今本件につきこれを見るに、事実関係は前段認定の如くであるから、右説示により、原告は、昭和三十二年七月三日以降は本件債権譲渡をもつて、債務者以外の第三者に対抗し得る筋合である。そして、原告主張の(四)、(五)の各事実は当事者間に争がない。そうすると、原告は、右昭和三十二年七月三日以後において原告主張の各債権仮差押をなした訴外株式会社井上喜商店及び三木産業株式会社に対し本件債権譲渡をもつて対抗し得るから、右訴外人らがなした本件債権の内金百六十五万二千五百円の債権に対する右各仮差押は無効であるというべきである。右の次第であるから、被告に対し右債権金百六十五万二千五百円の支払を求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 安部覚)

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